「私は中学3年からアライヘルメットさんのサポートを受けさせてもらっていますので、アライさんとはもう20年以上のお付き合いをさせていただいています」
そう笑顔で語るのは、ampioの代表取締役をつとめる鈴木慶祐です。彼はモータースポーツのシーズンには、毎週末のようにサーキットやレース会場に姿を現します。そこで鈴木は、F1グランプリを始め世界中のサーキットで選手たちの圧倒的な支持を得て、ヘルメットメーカーのトップブランドの地位を確立しているアライヘルメットのサービススタッフとして、選手たちを支えているのです。
「1年のうち20戦ぐらいはアライさんのサービススタッフとして週末に仕事をしています。基本はモトクロスですが、フォーミュラ・ニッポン(FN)、ロードレース、MotoGPもたまにやることがあります」
ひとくちにヘルメットサービスといっても、その仕事は多岐にわたります。また2輪と4輪では選手の使用するヘルメットが異なるように、作業の内容も変わってきます。ヘルメットサービスの具体的な仕事について、鈴木に解説してもらいました。
「2輪でも4輪でも選手ひとりひとりの要求に応え、彼らの希望するようにヘルメットの調整を行う。それが僕たちの仕事になります。4輪ではヘルメットの外側をきれいにすることはもちろん、内装の微調整を行うこともあります。またドライバーの好みに合わせたシールドの装着、バイザー用のステッカーを貼ることも僕たちの仕事です。シールドに関して言えば、FNはひとりのドライバーで1日1枚新品、決勝の前にも新品に交換しますので、多い時は2日間で3枚も提供する場合もあります。それから捨てバイザーのセッティングも重要な仕事です。捨てバイザーを貼る方向が、ドライバーによってリクエストが異なるのです。例えばブノワ・トレルイエ選手は左→左→左、塚越広大選手は右→右→右、他にも右→左→右という選手もいるのです。それを、間違いなくやらなければなりません」
「2輪のモトクロスは運動量がすごいので、汗の量が多いのです。ヘルメットの重量が1.5kgだとすると、走行が終わると3kgになっていることもあります。ですからヘルメットの外側だけでなく、内装も洗ってきれいにすることもあります。シールドに関しては、4輪のような上部にスポンサーのステッカーが貼っていませんので、モトクロスやロードレースの2輪では使い回しができます。でもロードレースは、イベント期間中にサービスするヘルメットの数が膨大なのです。FNはシェアが100%ですが、ドライバーは13人です。一方のロードレースではアライのユーザーが40人~50人います。しかもライダーは雨用のヘルメットが1個、ドライ用が2個、合計で3個というケースがほとんどです。するとイベント期間中に各ライダーがヘルメットを3個ずつ持ってきますので、それだけの数を限られた時間の中でチェックし、メンテナンスをするのは大変です」

高速でマシンを走らせるライダーやドライバーの安全を守るヘルメット。それだけにミスの許されない責任の重い仕事ですが、「とてもやりがいがあります」と鈴木は語っている。
「やはり現場にいると、それぞれのレースで予想外のドラマがあります。それが面白いです。ドキっとするようなクラッシュもありますが、選手が無事にコクピットから出てきてくれたら、やっぱりうれしいですね。個人的には、選手の成長を間近で見ることができるのがいいですね。若い選手がどんどん力をつけて、トップの選手に成長していく。それを目の当たりにできるのも、この仕事の大きな魅力のひとつと言えるでしょう」
また現在、ドライバーやライダーの育成にも力を入れている鈴木は、ヘルメットサービスという裏方になって、いろいろなことが見えてきたとも語っています。それが現在ampioが取り組んでいる若手選手の育成にも大きく役立っているといいます。
「例えば挨拶ひとつにしても、レースウィークの間に1回でもすると、しないでは全然印象が違います。まあ自分も現役時代にはそんなにしていなかったんですけど(笑)。タイヤメーカーさんにしても、プラグメーカーさんにしても、それを実際に使っている選手に挨拶をされるとうれしいものです。それだけでもサポートする側の気合が全然違うと思います。モータースポーツは道具を使うスポーツです。そういう小さいことの積み重ねによって、きっと差が出てくると思うのです」